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2023/12/08Blog

通勤災害

政府の労災保険は「通勤災害」も給付の対象としている。
このことが、意外と経営者(使用者)に知られていないということを最近感じる場面があった。
では、「通勤災害」の定義とはいかなるものなのか。
厚生労働省が発行する「労災保険給付の概要」には、以下のように記載されいる。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-12.html

労災保険給付の概要(抜粋)

通勤災害とは、通勤によって労働者が被った傷病等をいいます。
この場合の「通勤」とは、就業に関し、
㋐住居と就業の場所との間の往復
㋑就業の場所から他の就業の場所への移動
㋒単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動
を、合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。
移動の経路を逸脱し、または中断した場合には、逸脱または中断の間およびその後の移動は「通勤」とはなりません。

ただし、例外的に認められた行為で逸脱または中断した場合には、その後の移動は「通勤」となります(5ページ⑥参照)。
通勤災害と認められるためには、その前提として、㋐から㋒までの移動が
労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。

 

【労災保険法における通勤の要件】

1.「就業に関し」とは
通勤は、その移動が業務と密接な関連をもって行われなければなりません。
したがって、前述の㋐または㋑の移動の場合、被災当日に就業することとなっていたこと、
または現実に就業していたことが必要です。このとき、遅刻やラッシュを避けるための早出など、
通常の出勤時刻とある程度の前後があっても就業との関連性は認められます。
また、㋒の移動の場合、原則として、就業日とその前日または翌日までに行われるものについて、通勤と認められます。

2.「住居」とは
「住居」とは、労働者が居住している家屋などの場所で、本人の就業のための拠点となるところをいいます。
したがって、就業の必要上、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くにアパートを借り、
そこから通勤している場合には、そこが住居となります。
また、通常は家族のいる所から通勤しており、天災や交通ストライキなどにより、
やむを得ず会社近くのホテルに泊まる場合には、そのホテルが住居となります。

3.「就業の場所」とは
「就業の場所」とは、業務を開始し、または終了する場所をいいます。
一般的には、会社や工場などをいいますが、外勤業務に従事する労働者で、特定区域を担当し、
区域内にある数か所の用務先を受け持って自宅との間を往復している場合には、
自宅を出てから最初の用務先が業務開始の場所となり、最後の用務先が業務終了の場所となります。

4.「合理的な経路および方法」とは
「合理的な経路および方法」とは、移動を行う場合に、一般に労働者が用いると認められる経路および方法をいいます。
「合理的な経路」については、通勤のために通常利用する経路が、複数ある場合、それらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回した経路、マイカー通勤者が駐車場を経由して通る経路など、
通勤のためにやむを得ず通る経路も合理的な経路となります。

しかし、合理的な理由もなく、著しく遠回りとなる経路をとる場合は、合理的な経路とはなりません。

「合理的な方法」については、通常用いられる交通方法
(鉄道、バスなどの公共交通機関を利用、自動車、自転車などを本来の用法に従って使用、徒歩など)は、
平常用いているかどうかにかかわらず、合理的な方法となります。

5.「業務の性質を有するもの」とは
①から④までの要件を満たす移動であっても、その行為が「業務の性質を有するもの」である場合には、通勤となりません。
具体的には、事業主の提供する専用交通機関を利用して出退勤する場合や
緊急用務のため休日に呼び出しを受けて出勤する場合などの移動による災害は、通勤災害ではなく業務災害となります。

6.「往復の経路を逸脱し、または中断した場合」とは
「逸脱」とは、通勤の途中で就業や通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、
「中断」とは、通勤の経路上で通勤と関係のない行為を行うことをいいます。
具体的には、通勤の途中で映画館に入る場合、飲酒する場合などをいいます。

しかし、通勤の途中で経路近くの公衆トイレを使用する場合や経路上の店で
タバコやジュースを購入する場合などのささいな行為を行う場合には、逸脱、中断とはなりません。

通勤の途中で逸脱または中断があるとその後は原則として通勤とはなりませんが、
これについては法律で例外が設けられており、日常生活上必要な行為であって、
厚生労働省令※で定めるものをやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、
逸脱または中断の間を除き、合理的な経路に復した後は再び通勤となります。

① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって
職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
④ 病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
⑤ 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに
配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る)

〔引用終了〕

その上で通勤災害の解釈について、一つの事例として、
所謂「国・羽曳野労基署長(通勤災害)事件」の「大阪高裁 平成19年4月18日判決」を紹介しておきたい。
これは、羽曳野労基署が労災保険(通勤災害)の不支給処分を行ったことに対して、
労働者が不支給処分の取消しを求めて国を提訴し、
大阪地裁・高裁ともに「不支給決定の取消し」と判断したものである。
判決の詳細な内容については、『公益社団法人労働基準関係団体連合会』のホームページを紹介しておくのでご参照頂きたい。
https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/08546.html

また、当判決の解りやすい解説については、『弁護士法人いかり法律事務所』のホームページより
『判例・裁判例』というコンテンツを紹介し、その内容を抜粋して引用しおきたい。

■弁護士法人いかり法律事務所のホームページ( https://ikari-law.com/saibanrei-3/2320/
【読むポイントここだけ】
この判決は,通勤災害にあたる通勤の「合理的な経路」について,事業場と自宅との間を往復する場合に、
一般に労働者が用いると認められる経路をいい、必ずしも最短距離の唯一の経路を指すものではない。
合理的な経路が複数ある場合には,そのうちのどれを労働者が選択しようが自由であると判断しました。

〔引用終了〕

損害保険各社には、政府の労災保険の上乗せ補償を行う所謂「業務災害総合保険」がラインナップされている。
この点〝通勤途上の急激かつ偶然な外来の事故によるケガ〟は概ね補償されており、
保険金は労災認定を待たずに支払う場合が多い。
労務管理と言えば「業務従事中」に焦点が当たりがちであるが、
企業防衛という観点で言えば「通勤災害」についても、
社内ルールと万が一の備えを遺漏なく盤石にしておくことが大事であると思う。

H.Enoki

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